前書き
随分前に書いた小説です。拙い部分があるかと思いますが、長く読んでいただいているものなので、よろしければ楽しんでください。
1話 旅館で働きたい!1
割烹旅館さくら。ここが私の新しい居場所。
ケーブルカーを使って登った先には旅館が並んでいた。うーん、歴史ある感じ。悪く言えば古臭い町並みだった。
旅館さくらの第一印象としては、特別良いというわけではないけれど他に負けているわけではない、というもの。
私はほぼ身一つでここにやって来ていた。下はキュロットスカート、上はパーカーという軽装。長めの黒髪をリボンで括っておさげにしている。リュックには最低限のもの、財布や服しか入っていない。
月収30万以上、住み込み可というのは最高の条件だ。独り身で家の無い私は、面接で落ちてしまったら生きていけないという状況だった。
「失礼します! 本日、面接に伺わせていただきました、木山葉奈子と申します! 今日はよろしくお願いします!」
……元気良すぎたかな。いや、言ってしまったなら仕方がない。猪突猛進なのは私の良いところだ。きっと。
「……採用」
「へ?」
「あんた、早すぎるよ」
そこに居た旦那さん(っぽい人)がいきなり出したオーケー。やっぱり元気が一番だよね! ってところで冷静な女将さん(っぽい人)に突っ込まれていた。
旅館には旦那さんと女将さん(ちゃんと本当に旦那さんと女将さんだった)しか居なかった。これなら採用率高いかも! という喜びと同時に、もし受かったとしても寂しいのだろうかとちょっと落ち込む。
旦那さんは40くらいの男前。何か江戸っ子っぽいイメージ。
女将さんも同じくらいか、もう少し若く見える。綺麗な人だった。
「――ということは、葉奈子ちゃんはここをどういうところか知らずに来たわけね」
「はい……」
一通り面接を終えると、女将さんがぽろっと厳しいことを口にする。旅館が並ぶこの辺りは、当然観光地なのだろう。しかし、私は土地のことをよく知らずにここに来ていた。
「私! 大好きなアニメがあって、その主人公の子がちょっと私と境遇が似てて……。で、住み込みで働くことの出来る旅館を探していました。ここを見つけたときは運命だと思いました! ちゃんと歴史の勉強もします! どうかここにおいてください!」
私は頭を下げる。私の好きなアニメでは、やってきた先が親族の営業する旅館だった。コネも無ければ経験もない、今の私のお願いは無茶なものだと理解している。私には、何でもやります! というアピールしか出来なかった。
「いや、そういうことじゃないの。この辺りは――」
「良いじゃないか! その熱意! 俺は買うよ!」
旦那さんは女将さんを遮るように言った。
「本当ですか!?」
「ちょ、ちょっと待って。えっとね――」
「弘美は黙ってな。これは俺が決めることだ」
「あんたね!」
旦那さんと女将さんは私の採用についてもめ始めた。当然私は旦那さんを応援しなければならない。
それにしても、やっぱり女将さんは厳しいのが相場なのだろうか。私はちょっと楽しくなっていた。
「頑張ります! 何でもしますから!」
「ほら、何でもするって言ってるし」
「えっと、葉奈子ちゃん。あなた、本当に中学生じゃないわよね?」
「ちゃ、ちゃんと卒業してます!!」
絶対言われるかと思った。悲しいかな、私は童顔で全体的に小さい。身長は当然のこと、胸やお尻も中学生クラスだった。
「葉奈子ちゃん。ここはな、歴史ある町だ。隠れ家であって、男の楽園」
「楽園……」
何で、『男の』と限定されるのだろう。よっぽど渋いものを観光資源にしているということか。
「葉奈子ちゃんなら、この旅館、……いや、この町の看板娘になることが出来る! 俺が断言してやる!」
ポッと自分の顔が赤くなるのを感じる。旦那さんの目には炎が宿っている。
「ちゃんと説明しなさい!」
「馬鹿! お前、ここの経済状況が分かってるのか? この子が来るだけで、旅館は持ち直すのは間違いないんだぞ?」
「それは……」
辛そうな顔をする女将さん。私は、旅館がそんな危機的な状況になっているのなら、尚更力になりたいと思った。
「私……頑張りますから」
真っすぐに女将さんを見る。すると、女将さんはさらに表情を強張らせた。何か事情があるのだろうか。私にはわからなかった。
1話 旅館で働きたい!2
どうやらここは本当に危機的な状況らしい。旦那さんが漏らした以上に、働いてみると実感することが出来る。
何故かお昼に数時間休憩する人が居るものの、泊まるお客さんは少ない。休憩する人は、お風呂に入ってから部屋で二時間ほど滞在した後、すぐに出て行ってしまう。不思議な旅館。
そしてさらに驚かされたことがある。二日連続でやってきた女性客のお相手が、前日とは別の男性だった。
きっとこの辺りに住んでいながら、いろんな人と関係を持っているのだろう。魔性の女というやつか。処女の私には遠い存在だった。
三日ほど、私は掃除に終始した。お部屋とお風呂の掃除。
お風呂は良いのだが、お部屋は独特なにおいがするのでちょっと苦手。
でも私はもう一歩も引くことの出来ない状況なので頑張るしかない。えっさっさーと必死に働いていた。
「そろそろお客を付けるかな」
旦那さんがボソッとそんなことを言った。
「お客さんを……付ける?」
お酌とかそういうことだろうか。旦那さんは大人びた笑みを浮かべる。
「この旅館、というかこの辺り全部の旅館の共通のサービスなんだけど、仲居さんがマンツーマンでお客さんを楽しませるんだ」
「マンツーマン……」
旅館って一人で来るものなのだろうか。ああ、そういえばあのアニメでも作家さんが来ていた気がする。でも、今までここに来たお客さんは、決まってカップル(というか不倫関係?)での来館だった。
「最初だし、常連さんを付けるよ。きっと優しく教えてもらえるから、仲良くやりな」
「は、はい!」
何となく返事をしたが、お客さんに教えてもらうというのは大丈夫なのだろうか。私の中の仲居さん像は崩壊の一途をたどっていた。
というわけで、初めてのお客さんが付いた。50歳くらいのダンディーな男性。中肉中背で、優しさが溢れているお父さんみたいな人だった。
お父さんが生きていたら同じくらいの歳だったかも。ちょっと切ない。
「よろしくね」
「は、はい! 葉奈子と申します! よろしくお願いします!」
大きく頭を下げた後、もう一度顔を見る。うん? どこかで見たことがあるような。
そうだ、この前も来ていた人だ。常連さん、というくらいだからそれは当然のことなのかもしれないが、私はあることを思って困惑する。
だって、この前は女性と来ていたじゃないか。
そしてその女性は別の男性と……。ああ、処女には理解しがたい世界。
他のお客さんの秘密を漏らすわけにもいかないし、浮気されてますよ、何て言えるはずも無い。
このおじさんを楽しませる。それが旅館さくらでの私のすべきこと。
「じゃあお風呂行こうか」
「はい」
お昼にきていきなりお風呂。よっぽどここのお風呂には魅力があるのかなと思っていたけれど、掃除している身としてはそんなに魅力的ではない。
しかし、それを目当てで来ているのだとしたら、私がどうこう言えることではなかった。
「背中流してね」
「え? は、はい……」
優しい笑顔で当たり前のように言われると、私もはいと言うしかない。仲居さんが背中を流す。それがこの町の共通のサービスなのだろうか。
「今日はどこへ行かれるんですか? それとも、もう行かれたんですか?」
「ははは、もちろんここが一番の目的だよ。僕は今日が楽しみで仕方が無かったんだから」
「そ、そうなんですか。いつもありがとうございます」
やっぱりどこかかみ合っていないような気がする。そして、それが私だけな気もする。
「君は本当にかわいいね。天使ちゃんみたい」
「あ、ありがとうございます」
遠回しにロリータ扱いされたし。でもお客さんに反論するわけにはいかないからなぁ。
露天風呂の前までお付き添いする。もう用済みとなりたいところだが、お背中を流すのならば、このまま帰るわけにはいかない。私は脱衣所を通り過ぎて洗い場辺りで待とうと思った。
すると、その手は引き留められた。また目撃するおじさんのにっこり笑顔。
「ほら、君も一緒に入るんだよ。さあ脱いだ脱いだ」
「えっー!?」
私はうっかり出した驚きの声を手で抑える。男の人と一緒にお風呂だなんて、物心ついてからは全く覚えが無い。
「みんなそうしてるよ。それが伝統のサービスだからね」
おじさんは優しくそう教えてくれる。その顔は全く悪気が無いものだった。
これは当たり前のこと。歴史ある町の伝統的なしきたりなのだから、そこに下品な私情というものは入らない。らしい。
新入りの私は戸惑ってしまう。しかし、この辺りで働く人にとって普通のことが出来ない、というのは示しがつかないものだ。私は決心した。
しかし、せめて脱衣所は分けてもらえないものだろうか。私はおじさんに背中を向けながら、着ているものを全て脱ぎ、バスタオルでそれを隠した。
「お待たせしまし――たぁぁ!?」
再び私は驚愕する。今度は口を手で押さえることも出来なかった。
だって、おじさんの……おち……おちん……息子さんが堂々とこちらを見ているのだから。
吸い込まれるようにそれを見た後、私はやっと目を逸らした。
子供ならまだしも、大人のあれは前衛的すぎる。手放しに受け入れることが出来るほど、まだ心は成人していないのだ。
「か、隠してくださいよぉ!!」
「はっはっは。ここでは隠さないもんだよ。ほら、君も脱いだ脱いだ」
そう言っておじさんは私のタオルを掴む。お殿様みたいなことをしているのに、おじさんの顔は優しいままだ。一国の主の余裕か、おなごのバスタオルを剥がすことなど雑作もないというのか。
「きゃぁぁぁぁあ!」
暴かれる私の裸体。手では隠しきれない……いや、サイズ的には十分に隠すことが出来るのだけれど、下と胸を左右の手で隠すにはなかなか技術が要るもので、右のお乳はしっかりと外気に触れていた。
「可愛い体じゃないか。そんな綺麗なものを隠すのはもったいないことだよ」
この人は仏様か何かなのか。私はおじさんに結構失礼なことをしているはずなのに、それをも楽しんでいるかのような余裕を感じる。
ああ、だからこの人なのだ。おじさんは新人の仲居を教育することが好きで、今日を楽しみにしていた。私はやっと理解することが出来た。
そう、私は教えを乞う立場。しっかり言われた通りにしなければならない。
私は胸を隠している右手をそっと外した。下を隠している左手は、とりあえずこのままにさせていただく。
「うーん……見事だね。赤子のほっぺのような肌、乳首が熟したばかりの果実みたいでちょうど食べごろみたいだ」
すっごく恥ずかしい分析をされる。褒められているのだけれど、食べごろという表現はちょっと危険な感じ。
すると、私の視界の中のある部分が動き始めた。おじさんの下のほう。さっき目撃した息子さん。
それはぐんぐん大きくなる。私が直視した時には、もうそそり立っていた。
「ああ、ごめんごめん。あまりにも君が魅力的だったものだから」
さいですか。私は、今度は目を逸らさずにそれをジッと見ていた。思っていたほど狂暴じゃないそれ。多分、想像よりも小さいからだ。
「じゃあそろそろ背中を流してもらおうか」
「あ、は、はい!」
いけないいけない。お客さんのものを見てボーっとするなんて。私は今仕事中。しかもまだ始まったばかりなのだ。
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